黄瀬さんとサメ

「いちじか」
「いちよんななちゃん、今日はどうだった?」
「うん、予定通り進んだよ」
「よかった、じゃあ早く寝られそうだね」
「…… うん」
「どうしたの」
「うん。僕の今日進んだ 1 日分の人生のうち、黄瀬さんのために使えていたのはいったい何パーセントあるのかなって思って」
「うん」
「僕は黄瀬さんに感謝してもしきれないくらいたくさんのものをもらって、ずっと黄瀬さんにありがとうって伝えたかった。だけど全然足りなくて、気持ちとか技術とか、本当に全然。だから気持ちを伝えるためにいろんなこと練習して。でも初めは確信を持ってたけど段々本当に伝わるのかな、実は届かないんじゃないかなって思えてきて。黄瀬さんのこと今でも好きで、だからたまに考えるのつらいなって思うことがあるよ。黄瀬さんのこと考える時間も昔ほど多くはないし、少し寂しいなって思う」
「そうだね」
「黄瀬さん、一緒に旅行したときのこと覚えてる ? あのとき買ったサメのぬいぐるみ、かわいいしさわり心地いいし、すごく愛着があって今でもよく抱いたり撫でたりしてるよ。でも実は最近思い返すまで黄瀬さんと一緒に買ったものだって忘れてたんだ。なんでこの子撫でてるとこんなに落ち着くんだろう、そういえばいつから居るんだっけって考えたらそうだ水族館行ったときだって。忘れてたことにびっくりしちゃった」
「そっか」
「ねぇ、黄瀬さん」
「なぁに」
「黄瀬さんは、黄瀬さんはさ、僕が、僕が本当に、黄瀬さんに……」
「ダメだよ」
「そっか」
「うん、あんまり夜更かししないようにね。おやすみ」
「うん、おやすみ」
 

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